塾講師は教える立場ですが、生徒から学ばされることも少なくありません。
塾という場所は、そうした気づきが日常的に訪れる場でもあります。
ある年、中学3年生の女の子が入塾しました。
入塾当初の偏差値は40台。勉強への意欲はまだこれからといった様子でしたが、第一印象はとにかく明るく元気。場の雰囲気をパッと明るくする、今どきの活発な生徒でした。
しかし、受験生としての意識はなかなか芽生えず、夏休みに入っても本格的な受験モードにはなりませんでした。志望校を選ぶ理由も「制服がかわいいから」といったもので、正直、こちらも少し焦りを感じていました。
ある日、思わず厳しく声をかけてしまう場面がありました。
その時、彼女が自分の将来の夢について話してくれたのです。
その夢は意外なほどにしっかりとしたもので、こちらの想像を超える熱意が込められていました。
そこから彼女は一変しました。
夢から逆算して志望校を見直し、自分に必要な環境を考え、学習に取り組むようになったのです。
授業がある日も、ない日も、夕方から閉校まで教室に残って、ひたむきに机に向かう姿がそこにはありました。
その姿を見て、私自身も強く心を動かされました。
やり抜くという姿勢の尊さ、努力の積み重ねがもたらす変化、そしてその力強さを、彼女から教えられたように思います。
最終的に彼女は偏差値を60超えるまでに伸ばし、志望校に合格しました。
しかし、最も印象に残っているのは、あの時期の彼女の姿勢です。
まなざしの真剣さや、背中ににじんでいた覚悟のようなものは、今でも私の記憶に深く残っています。
頑張る姿は、人の心を動かします。
そして、不思議なことに、それ以来私は、表面では見えにくい「ひたむきに頑張っている人」を自然と感じ取れるようになりました。
あの生徒に出会えたことが、私の視点と心のあり方を変えてくれたのだと思います。
今もなお、その出会いに深く感謝しています。